足音をしのばせて わたしは别れる
足音をしのばせてきたときのように
そっと手をふって
西空の云に さようなら
河岸の金(きん)いろの芽の柳は
夕阳のなかの花嫁(はなよめ)だ
波にてり映(は)えるあですがたは
わたしの胸にゆれる
しかし わたしは歌わない
そっと别れの笛の音をひびかせ
草むらの虫も わたしのために沈黙(ちんもく)し
沈黙がこの夜のケンブリッヂだ!
そっと わたしは别れる
そっと わたしがきたときのように
わたしは思いきりよく起ちあがり
一きれの云さえ手にしない
やわらかな泥(どろ)に生(は)える
水草(みずくさ)は
水底(みなそこ)からさしまねき
流れる河のやさしい波に
わたしはもはや水草になった